令和6年7月3日金融庁が公表した「2024年保険モニタリングレポート」を見やすく説明しながら、1年間保険市場の変動/状況を説明していきます。
今回は損害保険に焦点を当てつつ、生命保険の2024年状況も説明していきます。

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はじめに
金融庁が公表した「2024年保険モニタリングレポート」は、日本の保険業界が直面する最新の課題と動向を明らかにしています。少子高齢化、自然災害の増加、デジタル化の進展など、激変する環境の中で、保険会社はどのように対応し、進化しようとしているのでしょうか。本記事では、このレポートの主要ポイントを詳細に解説し、保険業界の現状と今後の展望について考察します。
保険市場の概況
日本の保険市場は、以下のように構成されています。

- 生命保険会社:41社
- 損害保険会社:57社
- 少額短期保険業者:122社
生命保険市場は大手グループが市場の大部分を占めているため、競争が激化しにくい一方、各社の収益性維持のための戦略的な商品開発が求められています。損害保険市場も同様に寡占状態にあり、特に自然災害リスクに対する対応が今後の課題として挙げられます。
収益構造の分析
- 生命保険:生命保険会社の利益の多くは、保有契約から得られる死差損益に依存しています。予定利率による「逆ざや」は過去に大きな問題となっていましたが、近年では予定利率の低下や契約内容の見直しにより、逆ざやの減少が見られます。今後は、予定利率の引き上げや商品開発の多様化が求められています。
- 損害保険:損害保険会社では、火災保険での損失が続く一方で、自動車保険や傷害保険などの他の保険種目での利益が全体の利益を支えています。2022年度の損害保険全体の利益率は1.6%にとどまっており、さらなる利益改善が必要です。

2023年度は増益基調 、 生保・損保ともに収益改善
生命保険業界と損害保険業界の2023年度業績が好調な推移を見せています。両業界とも前年度比で増益を達成し、収益基盤の安定化が進んでいることが明らかになりました。
主要保険会社における当期純利益の推移

生命保険業界では、死差損益が収益の中核を占め続けています。特筆すべき点として、かつて業界の課題とされていた「逆ざや」(運用収支が予定利率を下回る状態)の問題が、過去の高予定利率契約の減少により改善傾向にあります。さらに、最近の金利上昇を背景に、一部の保険会社では予定利率の引き上げに踏み切る動きも出てきています。2023年度の業績については、新型コロナウイルス感染症関連の給付金支払いの減少が増益要因となりました。
一方、損害保険業界では、自然災害の激甚化により火災保険部門で継続的な損失を計上しているものの、自動車保険などその他の保険種目が好調で、これを補完しています。2022年度の保険引受利益率は1.6%のプラスを確保。2023年度については、政策株式の売却益増加が寄与し、主要3グループともに増益を達成しました。
このように、生命保険、損害保険の両業界とも、それぞれの課題に対応しながら、収益力の強化に成功している様子が浮き彫りとなっています。
自然災害への対応
能登半島地震(2024年1月1日発生)の影響と対応
2024年1月1日に発生した能登半島地震が表すように、現在日本では地震の恐れが大きくなっています。こんな状況な中で損害保険各社は、災害発生時の迅速な対応を重視し立会調査や共同調査を通じて、保険金支払のスピードアップを図っています。また、自然災害への対応力を強化するための新たな技術導入も進んでいます。
令和6年能登半島地震に係る地震保険の支払状況推移

能登半島地震が発生してから約4か月経った5月31日時点での家計向け地震保険の対応状況を見ると、150,567件の事故受付に対し、調査完了件数は145,899件と96.9%に達しています。保険金支払いについては103,439件、約910億円が完了。この支払額は過去6番目の規模です。
企業向けの地震補償については、地震保険に加え、自動車保険の地震・噴火・津波補償特約、船舶保険なども支払対象となっています。ただし、今回の被災地域には企業が比較的少ないという特性から、大手損害保険会社によると、これらの支払額は地震保険の数%程度にとどまる見通しです。
注目すべき動きとして、インデックス保険の活用も広がりを見せています。2024年3月末時点で約100件の支払いが完了。家計向けは1~10万円の小口補償が中心だが、企業向けでは数百万円規模の支払いが一般的で、一部では億円規模の支払いも確認されます。このように、従来型の保険に加え、新しい保険商品も被災者支援の一翼を担い始めています。
また、損害サービスのほかにもテレマティクス自動車保険データの活用し収集された自動車走行データを基に道路被害の可視化や一般公開が行われることで被災地の迅速な復旧支援や予防措置の向上を図ったり、詳細情報を地方自治体に無償提供するなど、防災・減災や早期復旧に資する新たな取組みも見られました。
2024年の生命・損害保険業界の実績
生命保険会社-販売チャネルの多様化と構造改革
生命保険業界で販売チャネルの多様化が進んでいます。従来の営業職員による販売に加え、保険ショップなどの乗合代理店や銀行窓口での販売(銀行窓販)が主要チャネルとして定着していますが、各チャネルで特徴的な動きが見られている。
個人保険・個人年金保険の分野別新契約年換算保険料の推移

乗合代理店を主力とする生保各社では、医療保険やがん保険といった第三分野商品の販売競争が激化しました。一方、銀行窓販主体の保険会社では、急激な円安や海外金利上昇を背景に外貨建保険の販売が伸長しています。特に大手生保各社では、人口動態の変化や顧客ニーズの多様化に対応し、従来の保険商品に加え、介護やヘルスケアなど非保険領域への展開を強化しています。企業買収を通じて子会社化を進め、保険・非保険サービスを組み合わせた総合的な「安心・安全」の提供を目指しているのです。
また、営業職員体制の強化も進んでいます。給与体系の見直しに加え、教育プログラムのデジタル化やカリキュラムの刷新により、営業職員の質的向上を図っています。さらに、地域振興活動への参画や社会貢献活動を評価制度に組み込むなど、職業としての魅力向上にも取り組んでいる状況です。
これらの取り組みを通じ、顧客基盤の強化と収益源の多角化を目指す一方、事業の持続可能性確保や子会社管理体制の高度化が新たな課題として浮上しています。
損害保険会社ー防災・減災の取り組みの強化と自然災害リスク管理の進展
関東大震災から100年となる2023年、日本損害保険協会は防災・減災関連イベントを積極的に展開しました。国土強靭化基本計画の見直しでは、民間の防災・減災サービスの活用が盛り込まれ、損害保険業界の役割が一層重要視されています。
【自然災害リスクへの対応】
風水災リスクについては、台風や雹害などの風災は標準補償として高い付帯率を維持。一方、水災補償は建物の立地やマンションの居住階によってリスクに差があり、特にマンションで付帯率の低下が見られます。損保各社は、洪水ハザードマップ等を活用し、契約者への水災リスク情報の提供を強化しています。
家計/企業分野の地震リスク対応(左)、企業向け地震補償の 需要供給曲線(右)

地震リスクでは、家計向け地震保険の付帯率が2022年度に69.4%まで上昇。一方、企業向け地震補償は、政府再保険の仕組みがなく、保険引受能力に限界があるため、付帯率は低水準にとどまっている状況です。ただし、外資系保険会社や、中小企業向けに低額の補償を提供する国内損保など、新たな取り組みも出てきています。
地震を含めた自然災害の再保険分野で2023年は世界的に見て、100億米ドルを超える大規模災害は発生せず、10億米ドル規度の中規模災害が複数発生する年となりました。この結果、再保険業界の収益が改善。さらに、世界的な金利やインフレ率のピークアウトも影響し、2024年1月の欧米損保を中心とした再保険更改では、料率上昇が抑制される展開となりました。
加重平均再保険料率の推移

このような市場の変動の中、日本の損害保険市場でも変化の兆しが見られました。2018年以降続いていた再保険料率のハード化(上昇)傾向に歯止めがかかり、風水災リスク、地震リスクともにわずかながら料率が低下しました。この背景には円安の進行に加え、2023年の自然災害による保険金支払いが抑制的だったことが影響しています。特に地震リスクについては、2024年元旦に発生した能登半島地震による影響が懸念されたものの、民間再保険を活用する企業向け地震補償での大規模支払いが限定的にとどまったことで、料率への影響を最小限に抑えることができました。
こうした市場環境の変化を受け、損保各社は再保険戦略の見直しを進めています。多くの会社では、元受契約の増加に伴うリスク量の増大に対応するため、超過損害額再保険の上層レイヤーのカバーを拡充。一方で、再保険会社の引受意欲が低い下層レイヤーや累積損害額再保険については、縮小や廃止の動きも出ています。また、一部の保険会社ではキャットボンドの発行も行っているが、全体のポートフォリオに占める割合は依然として小さい状況です。
再保険戦略で成果を上げている保険会社の特徴として、再保険カバーがRoR(リターン・オン・リスク)に与える効果や収益の安定性を多角的に分析している点が挙げられます。また、自社のリスク量削減への取り組みを再保険会社に積極的にアピールすることで、有利な条件での契約更改を実現している例も見られます。
市場環境が大きく変化する中、損保各社には統合的リスク管理(ERM)の一層の高度化が求められています。同時に、顧客のニーズやリスクの実態を踏まえた補償内容・保険料率の見直しも重要な課題です。
損害査定プロセスでは、ドローンや衛星画像、AIを活用した新技術の導入が進んでいます。また、インデックス保険など新商品の開発も活発化し、特に企業分野での認知度が向上しています。2022年の福島沖地震では、個人向けで3営業日後に97.2%の保険金支払いを完了するなど、迅速な対応を実現しました。
まとめ
ここまで金融庁が発表した『2024年の保険モニタリングレポート』を基に、2024年日本の損害・生命保険の業界状況と変化、またこれからの課題を説明説明しました。このレポートは日本の保険業界が多岐にわたる課題に直面していることを明らかにしています。自然災害リスクの増大、デジタル化の進展、顧客ニーズの多様化など、環境変化への対応が求められる状況の中で、保険業界を構成している各存在がどうやってこの課題を克服していくのか、今後の発展が期待されています。
保険業界全体の健全な発展と、契約者保護の強化に向けた取り組みを継続することが、今後の成長と発展の鍵であることを覚えつつ、社会の変化にどうやって柔軟に対応していくのか。顧客にとって価値のある商品・サービスを提供し続けるよう、保険業界の構成員みんなは悩み、考えていきます。
*本記事は金融庁『2024年保険モニタリングレポート』を基に作成されました。
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