海外取引における債権回収は、国内取引とは異なる様々な困難が伴います。言語や法制度の違い、地理的な距離などが障壁となり、債権回収に時間とコストがかかるだけでなく、回収自体が難しくなるケースも少なくありません。本記事では、訴訟による回収の成功率、訴訟に踏み切る前の検討事項、裁判以外の解決策、コレクション・エージェンシーの活用について解説します。
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訴訟による回収の成功率
海外取引における債権回収の最終手段として、訴訟が検討されることがあります。しかし、訴訟による回収の成功率は、感覚的には1割にも満たないと考えられます。その理由は、以下の3つが挙げられます。
①勝訴しても、敗訴した債務者が控訴する可能性がある。
訴訟で勝訴しても、債務者が控訴することで、さらに時間とコストがかかってしまいます。海外での訴訟は、日本の裁判制度とは異なり、進行が遅く、費用も高額になる傾向があります。
②債務者に執行する資産がない場合、回収は難しい。
勝訴判決を得ても、債務者に強制執行できる資産がなければ、回収は困難です。海外の債務者の資産状況を把握することは容易ではなく、たとえ資産があったとしても、現地の法制度によって執行手続きが複雑になるケースもあります。
③訴訟のタイミングが遅れると、債務者がすでに倒産している可能性がある。
訴訟の準備や手続きに時間がかかると、その間に債務者が倒産してしまうリスクがあります。倒産手続きが開始されると、債権回収はさらに困難になります。
以上のように、訴訟による債権回収は、時間とコストがかかるうえに、成功率も高くないことが分かります。したがって、訴訟は最終手段と位置づけ、訴訟に踏み切る前に他の回収方法を検討することが重要です。
訴訟に踏み切る前の検討事項
訴訟を起こす前には、様々な要因を多方面から検討する必要があります。具体的には、以下の点が重要です。
①パラリーガルアクション(弁護士が第三者として介入し、債権回収を図る)や予備調査(訴訟等の法的手段による回収の可能性についての事前調査)を活用する。
訴訟に踏み切る前に、パラリーガルアクションを検討することで、弁護士の力を借りて債権回収を図ることができます。また、予備調査を行うことで、訴訟等の法的手段による回収の可能性を事前に把握することができます。
②債務者の資産調査を行い、強制執行に供する資産の有無を確認する。
訴訟に勝訴しても、債務者に執行可能な資産がなければ意味がありません。したがって、訴訟に踏み切る前に、債務者の資産状況を調査し、強制執行に供する資産の有無を確認することが重要です。
③海外弁護士を選ぶ際は、成功報酬の定義を十分確認し、報酬体系にも注意する。
海外での訴訟を行う場合、現地の弁護士に依頼することになります。その際、成功報酬の定義を十分に確認し、報酬体系にも注意する必要があります。成功報酬の定義が不明確だと、弁護士費用が高額になるリスクがあります。
以上の点を踏まえ、訴訟に踏み切るかどうかを慎重に検討することが重要です。
裁判以外の解決策
裁判以外の紛争解決方法として、ADR(裁判外紛争処理)があります。ADRには、和解、仲裁、調停、斡旋などがありますが、中でも仲裁は海外取引で最もよく使われる方法です。仲裁のメリットは、以下の点が挙げられます。
①仲裁判断に国際的な強制力が与えられている。
ニューヨーク条約に基づき、仲裁判断は国際的に強制力が認められています。したがって、仲裁判断に基づいて、債務者の資産がある国で強制執行を行うことができます。
②仲裁人を選択できる。
仲裁では、当事者が仲裁人を選択することができます。専門性の高い仲裁人を選ぶことで、適切な判断を得ることができます。
③英語で仲裁を行うことができ、翻訳費用を節約できる。
海外取引の契約書や貿易書類は、英語で作成されていることが多いため、英語で仲裁を行うことで翻訳費用を節約できます。
一方、仲裁のデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
①仲裁判断の基準が不明確である。
仲裁は非公開で行われるため、仲裁判断の基準が不明確になりがちです。
②1審制で上訴できない。
仲裁は1審制であるため、仲裁判断に不服があっても上訴することができません。
③審理が長期化すると、裁判よりも費用が高くなる可能性がある。
仲裁は1審制のため、審理が長期化すると、かえって裁判よりも費用が高くなるリスクがあります。
以上のように、仲裁にはメリットとデメリットがありますが、裁判よりも柔軟で迅速な解決が期待できるため、海外取引における紛争解決の選択肢の一つとして検討に値します。
コレクション・エージェンシーの活用
コレクション・エージェンシーは、当事者間では解決の付かない債権回収に関するトラブルを、法的手段によらずに安価で迅速に解決する専門家集団です。欧米では広く普及しており、回収に関する様々なノウハウや技術を有しています。
コレクション・エージェンシーの主な業務は、以下の2つです。
①第三者としての回収
コレクション・エージェンシーが債権者の代わりに、自社の社名を使って回収活動を行います。これにより、債務者に対してプレッシャーをかけることができます。
②回収業務のアウトソーシング
債権者からの委託を受けて、請求書の発行から入金管理まで、回収業務全般を代行します。特に、遅延期間が3か月を超える売掛金については、社内リソースを投入するよりも、コレクション・エージェンシーに回収を依頼した方が効率的です。
コレクション・エージェンシーの回収手法は、督促状の送付、FAX、電話、電子メールが中心で、訪問することは少ないようです。これは、訪問に伴う身体的リスクや効率の悪さを避けるためです。また、回収担当者の多くは女性で、粘り強く交渉することで高い回収率を上げているといいます。
ただし、コレクション・エージェンシーに回収を依頼した場合、取引先との関係が悪化するリスクがあります。したがって、コレクション・エージェンシーの活用は、取引先との関係を考慮しながら、慎重に検討する必要があります。
まとめ
海外取引における債権回収は、訴訟による回収の成功率が低いため、訴訟に踏み切る前に様々な検討が必要です。具体的には、パラリーガルアクションや予備調査の活用、債務者の資産調査、海外弁護士の選定などが重要です。また、裁判以外の解決策として、仲裁を検討することも有効です。仲裁は、国際的な強制力があり、仲裁人の選択や英語での手続きが可能であるなど、海外取引に適した特徴があります。さらに、コレクション・エージェンシーを活用することで、法的手段によらずに安価で迅速に債権回収を行うことができます。ただし、取引先との関係悪化のリスクには注意が必要です。
海外取引における債権回収には様々な方法がありますが、どの方法を選択するにしても、早期の行動が重要です。債権回収が遅れるほど、回収可能性は低下します。したがって、債権回収を効果的に行うには、日頃から取引先の与信管理を徹底し、債権の発生を未然に防ぐことが大切です。そのうえで、債権が発生した場合は、早期に回収行動を起こし、適切な方法を選択することが求められます。
*本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。
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