対ドルの円相場は、2023年に入って大きく円安・ドル高方向に振れました。4月29日には1ドル=160円24銭と、34年ぶりの円安水準を付けた後、円買い・ドル売り介入や米経済指標の結果を受けて、5月3日には151円86銭まで円高・ドル安方向に戻しましたが、依然として円安基調が続いています。世の中の関心事の一つは、この円安局面がいつまで続くのかという点です。本記事では、足元の円安局面の背景と今後の見通しについて考察します。
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経済ファンダメンタルズから見た円相場
まず、円相場に影響を及ぼす経済ファンダメンタルズ要因を確認しておきましょう。長期的な視点からは、購買力平価(PPP)が挙げられます。これは日米間の「一物一価」を表しており、その相対的な関係から円相場のトレンドを見るものです。足元の円相場は購買力平価に比べて、円安・ドル高方向に大きく乖離しています。歴史的な物価高騰と日米の金融政策の相違などを踏まえれば、今後は円相場が購買力平価に向かって円高・ドル安方向に戻る力の方が大きいと考えられます。
また、経常収支も円相場を見る上で重要な指標です。日本は長年にわたって経常黒字を維持しており、これは潜在的な円買い・ドル売り需要となります。ただし、資源高と円安効果が重なって貿易赤字が拡大した局面では、見た目の経常黒字とは裏腹に、実際の資金フローでは円安・ドル高圧力がかかっていた可能性があります。足元では貿易赤字が縮小し、経常黒字による円高・ドル安圧力が回復しつつあります。
一方、日米のマネタリーベースや金利差は、円安・ドル高圧力として作用しています。日銀は量的緩和の縮小に着手したものの、FRBの量的引き締めペースには及ばず、マネタリーベースの面では円安圧力が残っています。加えて、日本の超低金利に対して米国の高金利という構図から、日米金利差は明確な円安要因となっています。日本の長期金利は上昇傾向にあり国債の魅力は高まりつつあるものの、当面は金利差を背景とした円安圧力が続くでしょう。
以上のように、足元では円高・ドル安方向に作用する要因と、円安・ドル高方向に作用する要因が混在しています。ただし、購買力平価など中長期的な要因からの円高圧力に対して、日米金利差など短期的な要因からの円安圧力が優勢な状況と言えそうです。
投機的な動きから変動が大きくなった円相場
こうした中で、投機的な動きが円安・ドル高に拍車をかけています。米商品先物取引委員会(CFTC)の非商業部門(投機筋)の取り組みを見ると、円は対ドルで売り越し幅が2007年以来の大きさに拡大しました。また、円キャリー取引の規模を反映する外国銀行在日支店の資産も、コロナ禍前を上回る水準まで増加しています。日銀がマイナス金利を脱却したとはいえ、主要国の中では依然として最も金利水準が低く、円キャリー取引には絶好の環境が整っているためです。
個人投資家の動きにも注目が集まっています。ドル円の取引額は依然として活発で、2023年4月の建玉残は2か月連続の買い越しとなりました。個人投資家は、4月末から5月初めにかけての急激な円高をチャンスと捉え、ドル買い・円売りポジションに転じた模様です。
このように、短期的な金利動向が変わらない限り、投機筋の動きが円相場の振れを拡大させる状態が当面続くと見られます。日銀の金融政策を巡る不透明感も、こうした投機的な動きに拍車をかける可能性があります。
いつまで円安が続くのか
では、足元の円安局面は今後どうなるのでしょうか。米利下げ開始が本格的に視野に入る段階まで、円安圧力が続く見込みです。FRBは利下げ開始について慎重な姿勢を崩しておらず、市場では9月のFOMCでの利下げ開始が有力視されています。円相場は、利下げ開始またはその十分な織り込みを契機に、円高・ドル安方向への調整が進むと考えられます。
ただし、利下げが開始されたとしても、日米の政策金利の差は一定程度残る見込みです。日銀の追加利上げも想定されますが、欧米ほどの大幅な金利上昇は考えにくいためです。そのため、日米実質金利差の縮小は象徴的なものにとどまり、円相場の上昇余地は限られるかもしれません。
加えて、日銀の金融政策運営を巡る不透明感も、円安圧力として作用する可能性があります。3月のマイナス金利解除とYCC撤廃は市場の予想外の決定でした。日銀にとって17年ぶりの利上げであり、物価上昇と金利上昇に適応するための試行錯誤が続いています。本来であれば、経済・物価動向を十分に分析した上で、丁寧な説明を伴う政策運営が求められるところですが、その面で不安を残したと言えるでしょう。金融政策の先行きを巡る不透明感が、投機筋の動きを活発化させる恐れもあります。
以上を踏まえると、年末までには足元のような円安局面が変化するとみるのが自然な見方です。ただし、政府・日銀の市場介入や地政学リスクの高まりなど、不確定要素も多いため、円相場の変動性が高い状態が続く可能性は小さくありません。
短期的・循環的な円安か、長期的・構造的な円安か
最後に、より長期的な視点から円安局面を考えてみましょう。米利下げ開始後も1ドル=150円前後の円安が継続するならば、円安トレンドが定着してしまった恐れがあります。つまり、金利差やそれを織り込んだ投機的な動きが反転しても、円安局面が続くならば、それは長期的かつ構造的な円安と見なされかねません。
2022年以降の急激な円安は、日米の金融政策の違いや資源高を主因とする「短期的・循環的」な側面が強かったと言えます。しかし、より長い目で見れば、日本経済の低成長・低金利構造や貿易収支の慢性的な赤字化など、円安を助長する「長期的・構造的」な要因も潜んでいます。今後、こうした構造的な問題が円相場により強く影響するようになれば、円安傾向が根強く残る可能性は否定できません。
その意味で、2023年は単なる円安局面の一時的な継続か、それとも円安トレンドの定着かを見極める重要な年になると言えるでしょう。日本経済の体質強化と内需拡大、日銀の説得力ある金融政策運営など、円高圧力を高める努力が求められています。
まとめ
足元の円安局面は、日米金利差の拡大と投機的な動きを背景に続いています。米利下げ開始までは円安圧力が維持され、利下げ後も円高方向への調整は限定的となる見通しです。
ただし、円安局面の長期化は、日本経済の構造的な問題を反映した円安トレンドの定着を示唆する可能性があります。日本経済の競争力強化と金融政策の適切な運営を通じて、過度な円安傾向からの脱却が期待されます。不透明感が強い中、引き続き円相場の動向から目が離せません。
*本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。
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