近年、米中間の対立が深刻化する中で、半導体産業が両国の争点となっています。特に先端半導体分野では、経済安全保障と軍事安全保障の観点から、米国による中国への輸出規制が強化されてきました。本稿では、トランプ政権からバイデン政権にかけての米国の半導体政策の変遷と、その背景にある米中対立の構造を分析します。さらに、これらの政策が世界の半導体産業に与える影響についても考察します。
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米中対立の背景と「中国製造2025」
米中間の経済的対立は、一般にトランプ政権下で激化したと理解されていますが、実際にはそれ以前から始まっていました。オバマ政権下でのTPP推進は、米国主導によるアジア太平洋地域のFTA形成という形で、対中戦略の一環として位置づけられていました。
しかし、トランプ政権はTPPを破棄し、関税引き上げを武器とする中国との二国間交渉に舵を切りました。特に問題視されたのが、2015年に中国政府が発表した「中国製造2025」です。この産業政策は、半導体を含む10の重点分野を定め、中国の製造業の高度化を目指すものでした。
「中国製造2025」の10の重点分野
トランプ政権下の対中規制強化
トランプ政権は、中国の産業政策の転換と二国間貿易赤字の削減を要求しました。これに対する中国の反発により、両国は関税引き上げの報復合戦に突入しました。同時に、安全保障輸出管理を強化する動きも加速しました。
2018年8月には、輸出管理改革法(ECRA)と外国投資審査現代化法(FIRRNA)が成立しました。ECRAでは、Emerging Technologies(新興技術)とFundamental Technologies(基盤的技術)を規制対象とする方向性が示されました。
ECRAのEmerging Technologies(新興技術)の技術分野
また、Entity Listと呼ばれる規制対象企業・団体のリストが作成され、個別の中国企業に対する制裁も実施されました。2019年5月には、ファーウェイがEntity Listに掲載され、米国企業からの半導体やソフトウェアの輸入が禁止されました。
半導体サプライチェーンの脆弱性とCHIPS法
COVID-19によるサプライチェーン危機や米中対立の深刻化を背景に、米国内で半導体サプライチェーンの脆弱性が問題視されるようになりました。
世界の半導体の売上(2021年)と生産能力(2019年)の対比(世界シェアベース)
この状況を受け、トランプ政権末期の2020年6月にCHIPS法が提案されました。バイデン政権下の2022年7月にCHIPS and Science Actとして成立し、米国内での半導体生産に対する520億ドルの補助金制度が設けられました。
バイデン政権下の先端半導体輸出規制
2022年10月7日、バイデン政権は対中国先端半導体輸出規制を施行しました。この措置はECRAに基づくもので、AI及びスーパーコンピュータ向けの高性能半導体とその製造装置等を規制対象としました。
規制の技術的閾値は以下の通りです:
- ロジック半導体:16nm以下
- DRAM:18nm以下
- NAND:128Layer以上
この規制は、軍事的安全保障の観点から実施されたと説明されています。米国は同盟国にも協力を要請し、日本とオランダは類似の規制を導入しました。
最近の米国の法令・規制に示された中国向け先端半導体に関する技術的閾値
まとめ
米中対立の深刻化に伴い、半導体産業は両国の争点となってきました。米国の政策は、当初の貿易摩擦から、安全保障輸出管理の強化、そして経済安全保障と軍事安全保障の両面からの規制へと発展してきました。
CHIPS法による産業政策と、ECRAに基づく輸出規制は、世界の半導体産業に大きな影響を与えています。特に2022年10月7日の規制は、先端半導体分野における米中のサプライチェーンを完全に分断するものとなりました。
今後、日本を含む各国は、米国の同盟国としての立場と自国の経済安全保障のバランスを取りながら、半導体政策を展開していく必要があります。米中対立が続く中、半導体産業はグローバルな地政学リスクにさらされ続けることになるでしょう。
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