2024-06-05

日銀は、足元の物価上昇を受けて、2025年までに段階的な利上げを進める可能性が高いです。ただし、日本のインフレには需要よりも供給の要因が強いため、利上げペースは緩やかにとどまる見込みです。賃金上昇率の加速など想定外の展開があれば利上げが速まる一方、個人消費の低迷や円安の反転などがあれば利上げは棚上げとなる恐れもあります。日銀の政策運営を占う上では、物価や賃金、需給、為替など幅広い指標をウォッチしていく必要があります。

クレジットヒルズは与信リスクの専門家として、お客様のビジネスの成長を支援します。

取引信用保険のスペシャリストとして、お客様の与信リスクマネジメントを強力にサポートします。豊富な専門知識と経験を活かし、お客様のニーズに合わせた最適な保険プランをご提案。保険会社との交渉力を発揮し、有利な条件を引き出すことで、お客様の利益を最大化します。

目次

日本銀行は現在、長期金利目標を0%程度に維持する「イールドカーブ・コントロール(YCC)」政策と▲0.1%の短期政策金利を組み合わせた大規模な金融緩和策を実施しています。この極めて緩和的な金融政策は、デフレからの脱却と2%の物価目標の達成を目的としたものですが、足元では物価上昇率が加速しており、金融政策の修正が迫られています。本記事では、第一生命経済研究所のレポートを基に、今後の日銀の政策金利見通しについて考察します。

7月の金融政策決定会合で追加利上げの可能性大

日銀は7月の金融政策決定会合で追加利上げを実施し、政策金利を現行の▲0.1%から+0.25%へ引き上げると予想されます。これまでは利上げ時期を10月と見ていましたが、春闘反映後の賃金データの蓄積や定額減税の効果見極めを待つ必要があるためです。しかし、日銀内の一連の情報発信(内田副総裁、安達委員の講演や「主な意見」)を踏まえると、利上げに対する慎重姿勢はそれほど強くないと判断されます。6月の金融政策決定会合では利上げの予告に近い情報発信があるかもしれません。

利上げが現実味を帯びてきた背景には、足元の物価動向があります。消費者物価指数(CPI)の上昇率は、生鮮食品とエネルギーを除くコアCPIベースで2%台半ばまで加速しており、日銀の目標である2%を上回る状態が続いています。加えて、賃金上昇率も高まりつつあります。2023年春闘では、ベースアップ(ベア)を含む賃上げ率が過去最高水準となり、名目賃金の上昇率は2%を超えると見込まれています。物価と賃金の上昇が同時に進行する状況では、日銀も金融緩和の修正を迫られます。

ただし、日本のインフレには特殊な事情があります。米国などではインフレの主因が旺盛な需要にあるのに対し、日本ではむしろ供給面の制約(原材料価格の上昇、円安など)が物価を押し上げている面が強いのです。個人消費は力強さを欠いており、需要サイドからのインフレ圧力は限定的と言えます。そのため、日銀は性急な金融引き締めには慎重姿勢を崩していません。7月の利上げはあくまで「利上げ開始」という位置づけであり、その後のペースは緩やかなものにとどまる可能性が高いでしょう。

2025年春までに政策金利は0.5%まで上昇の可能性

2025年春頃までにもう一度利上げが実施され、政策金利を0.5%まで引き上げた後、様子見姿勢に転じると予想されています。前述の通り、日本のインフレは需要側よりも供給側の要因が強いため、本格的な金融引き締めには慎重になると見られます。日銀は物価目標の達成と経済の下支えのバランスを取りながら、緩やかなペースで利上げを進めていくことになりそうです。

ただし、賃金上昇率が想定以上に高まれば、物価上昇率も高止まりしやすくなります。2024年度の名目賃金上昇率(現金給与総額)が3%程度に達する蓋然性は小さくありません。その場合、2025年春闘に向けて賃金上昇率が2%超で推移するとの見方が広がれば、日銀は物価上昇の持続性を重視せざるを得なくなります。適度な金融引き締めを通じてインフレ期待の過熱を抑える必要が生じれば、2025年末までに政策金利が1.0~1.5%程度まで上昇する可能性もあります。

もっとも、日本経済の基調は力強さを欠いており、個人消費の本格的な回復が見通しにくいのが現状です。住宅ローン金利の負担増などから消費の下押し圧力は根強く、利上げがもたらすマイナス影響も無視できません。利上げによる副次的な効果(金利収入の増加や金融商品の魅力度上昇など)が見込めるようになれば、日銀の政策運営の自由度は高まりますが、そこに至るまでにはまだ時間がかかりそうです。

物価のみに注目すれば「もしトリ」シナリオも

現在の日銀は、物価安定と経済の下支えの「二兎を追う」スタンスを取っていますが、一時期の欧州中央銀行(ECB)のように、物価安定の達成を最優先するアプローチも理論上は考えられます。レポートでは、この「もしトリ」(トリシェ元ECB総裁が日銀総裁になったらという意味)シナリオの可能性にも言及しています。

もし日銀が物価水準のみに注目して金融政策を決定するようになれば、中立金利(1~2%)を明確に上回る利上げを実施し、政策金利が2%以上に達する可能性があります。この場合、日銀は需給ギャップなどの経済指標を度外視して、物価上昇率が2%程度で安定するまで機械的に利上げを進めることになります。円安などを背景とした輸入物価の上昇が続けば、日銀は「物価の番人」に徹して断続的な利上げに踏み切ることもありえます。

ただし、現在の日本では、景気への配慮を欠いた金融政策は受け入れられにくいのが実情です。そもそも需給の引き締まりを伴わない物価上昇に対して、金融引き締めだけで対処することには無理があります。加えて、日本では潜在成長率が低いため、中央銀行の利上げ余力にも限りがあります。したがって、「もしトリ」シナリオが現実になる可能性は決して高くないと考えられます。

利上げ棚上げの可能性は10%

最後に、日銀が当面利上げを見送るシナリオについても触れておきましょう。米連邦準備制度理事会(FRB)が早期に利下げへ転じることで円安基調が反転し、輸入物価が落ち着けば、日銀も利上げを棚上げし、当分現状を維持する可能性があります。

この場合、日銀は個人消費の本格的な回復を粘り強く待つことになります。日本の潜在成長率の低さを踏まえれば、無理な利上げは経済の下押しリスクとなりかねません。賃金上昇率が想定ほど高まらず、物価上昇率も低下に向かえば、日銀は現状の緩和的な金融政策を当面維持せざるを得なくなるでしょう。「出口」までの道のりは平坦ではなく、様々な可能性を想定した柔軟な政策運営が求められそうです。

まとめ

日銀は7月から2025年にかけて段階的に政策金利の引き上げを進める可能性が高いと考えられます。物価上昇率の高止まりを受けて、金融緩和の修正は避けられない情勢となっています。ただし、日本のインフレには需要よりも供給の要因が強く、急速な金融引き締めには馴染みにくい面があります。日銀は物価と景気のバランスを取りながら、緩やかなペースで利上げを進めていくことになるでしょう。

ただし、賃金上昇率の加速など想定外の展開があれば、利上げペースが速まる可能性は十分にあります。一方、個人消費の低迷が続いたり、円安基調が反転したりすれば、利上げは棚上げとなる恐れもあります。金融政策の先行きを占う上では、インフレ率や賃金上昇率、需給ギャップ、為替市場の動向など、幅広い指標をウォッチしていく必要がありそうです。

*本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。

与信リスクのプロとして、お客様のビジネス成長を支援

私たちは、与信リスクに特化した保険ブローカーとして、お客様の信頼できるパートナーであることを使命としています。取引信用保険、資金調達サービスに興味がある方は気軽にお問い合わせください。

https://www.credit-hills.com/contact‍