2024年度上半期(4月〜9月)の全国企業倒産件数が発表されました。帝国データバンクの調査によると、倒産件数は前年同期比18.6%増の4,990件となり、6半期連続で増加しています。この数字は2013年度以来の5,000件に迫る水準であり、日本経済が直面している課題を浮き彫りにしています。本稿では、この倒産動向の詳細を分析し、その背景にある経済環境の変化や企業が直面する課題について考察します。
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倒産件数の推移と特徴
全体動向
2024年度上半期の倒産件数4,990件は、前年同期の4,208件から782件増加しています。この増加傾向は2021年度下半期(2,978件)以降、6半期連続で続いています。特筆すべきは、9月単月の倒産件数が741件となり、29カ月連続で前年同月を上回ったことです。
年度半期別の倒産件数推移
この表から、2021年度を底に倒産件数が急速に増加していることがわかります。2024年度上半期の件数は、すでに2022年度通年の件数に迫る水準となっています。
業種別の動向
業種別にみると、全業種で前年同期を上回る結果となっています。
業種別の倒産件数
特に注目すべき点は以下の通りです:
- サービス業:1,312件(前年同期比28.4%増)で2000年度以降最多となっています。
- 小売業:1,048件(同18.4%増)で2013年度以来11年ぶりに1,000件を超えています。
- 製造業:599件(同35.8%増)と大幅増加しています。
- 建設業:921件(同9.5%増)となっています。
- 運輸・通信業:249件(同14.7%増)で2年連続200件を超えています。
特にサービス業と小売業の倒産増加が顕著であり、これらの業種が直面する課題が浮き彫りになっています。
倒産の主因分析
倒産の主因別にみると、「販売不振」が4,100件(前年同期比23.8%増)で最も多く、全体の82.2%を占めています。これは2015年度上半期(82.5%)に次ぐ、過去2番目の高水準です。
倒産主因別の件数
「不況型倒産」(販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振の合計)は4,171件(同23.5%増)となり、11年ぶりに4,000件を上回っています。この数字は、多くの企業が厳しい経営環境に直面していることを示しています。
倒産の背景と要因
1. 経済環境の変化
2024年度上半期の倒産増加の背景には、以下のような経済環境の変化があります:
- インフレーションの進行:原材料価格や光熱費の高騰が企業の収益を圧迫しています。
- 金利上昇:日本銀行のゼロ金利政策修正による資金調達コストの上昇が見られます。
- 円安の進行:輸入依存度の高い企業にとってはコスト増加要因となっています。
- 人手不足の深刻化:人材確保のためのコスト増加が発生しています。
2. コロナ禍からの回復過程における課題
新型コロナウイルス感染症の影響から徐々に回復する中で、以下のような課題が顕在化しています:
- 需要の偏在:業種や地域によって回復度合いに差があります。
- 債務の増加:コロナ禍での資金繰り支援策により増加した債務の返済負担が生じています。
- 事業モデルの転換の遅れ:コロナ禍で変化した消費者行動への対応の遅れが見られます。
3. 構造的な問題
日本経済が抱える構造的な問題も倒産増加の要因となっています:
- 少子高齢化:労働力人口の減少と国内市場の縮小が進んでいます。
- 生産性の低さ:特に中小企業における生産性向上の遅れが見られます。
- デジタル化の遅れ:DXへの対応の遅れによる競争力低下が懸念されます。
注目すべき倒産動向
1. 飲食店の倒産急増
2024年1-9月の飲食店の倒産件数は650件と、前年同期比16.5%増加しています。このペースが続けば、年間で過去最多となる870件前後に達する見込みです。
業態別の内訳
特に、深夜営業の多い「酒場、ビヤホール」と「バー、キャバレー、ナイトクラブ」を合わせると230件となり、全体の35.4%を占めています。
飲食店の倒産増加の背景には、以下のような要因があります:
- 食材・光熱費の高騰による収益圧迫
- 人材確保・維持のための賃上げ負担
- 価格転嫁の難しさ(2024年7月調査での価格転嫁率は36.0%と、全業種平均44.9%を大きく下回っています)
- アフターコロナでの競争激化
2. 「人手不足倒産」の増加
「人手不足倒産」は163件(前年同期比20.7%増)発生し、上半期としては初めて150件を超えています。業種別では、建設業(55件)が最も多く、2024年問題で人手不足が深刻な運輸・通信業(23件)と合わせて5割近くを占めています。
人手不足倒産の増加は、日本の労働市場の構造的な問題を反映しています:
- 少子高齢化による労働力人口の減少
- 特定業種における若年労働者の不足
- 技能継承の困難さ
- 働き方改革による労働時間の制限
3. 「ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産」の動向
「ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産」は360件(前年同期比10.8%増)発生し、上半期としては過去最多を更新しています。実際の融資額が判明した約540社のゼロゼロ融資借入額の平均は約5,800万円となっており、「不良債権(焦げ付き)」に相当するゼロゼロ融資喪失総額は推計で約1,028億300万円にのぼります。
この動向は、コロナ禍での緊急経済対策の副作用が顕在化していることを示しています:
- 返済猶予期間の終了による返済負担の増加
- 事業モデルの転換が進まないまま融資を受けた企業の経営難
- 融資を受けたことで一時的に延命した企業の倒産
4. 「物価高倒産」の急増
「物価高倒産」は472件(前年同期比23.2%増)発生し、過去最多を大幅に更新しています。このペースで推移した場合、2024年度通年の件数は900件を超える可能性があります。
業種別物価高倒産件数
物価高倒産の増加は、以下のような要因が背景にあります:
- 原材料価格の高騰
- エネルギーコストの上昇
- 人件費の上昇
- 価格転嫁の困難さ
特に中小企業において、これらのコスト上昇を価格に転嫁できない企業が多く、収益が圧迫されている状況が浮き彫りになっています。
地域別の倒産動向
地域別の倒産件数を見ると、全国的に増加傾向が見られるものの、地域によって差異があります。
地域別の倒産件数
特筆すべき点として、中国地方の増加率が39.7%と最も高く、北陸地方も28.2%と大きく増加しています。一方、関東地方は件数自体は最も多いものの、増加率は13.3%と比較的低い水準にとどまっています。
また、2024年1-9月の累計では、「高知」など11県が2023年通年の件数を上回っており、地方経済の厳しさを浮き彫りにしています。
今後の展望と課題
2024年度の倒産件数は、このまま推移すれば11年ぶりに1万件台に達する可能性が高いです。この状況を踏まえ、以下のような課題と対策が考えられます:
1. 企業の経営力強化
企業自身が取り組むべき課題として、以下が挙げられます:
- 事業再構築・事業転換の促進:変化する市場環境に適応するため、既存事業の見直しや新規事業への参入を積極的に検討する必要があります。
- デジタル化・DXの推進による生産性向上:ITツールの導入やビジネスプロセスの見直しにより、業務効率化と生産性向上を図ることが重要です。
- 人材育成と技能継承の強化:人手不足対策として、既存社員のスキルアップと若手への技能継承を計画的に進める必要があります。
- 財務体質の改善と資金調達の多様化:自己資本比率の向上や多様な資金調達手段の確保により、財務基盤の強化を図ることが求められます。
2. 政策的支援
政府や地方自治体に求められる支援策として、以下が考えられます:
- 中小企業向け支援策の拡充:資金繰り支援だけでなく、事業再構築や生産性向上のための補助金・助成金制度の充実が必要です。
- 物価高対策の実施:原材料価格高騰に対する緊急支援や、価格転嫁の円滑化に向けた取り組みが求められます。
- 個人消費の拡大策:消費喚起策の実施や、賃上げ促進のための政策的支援が必要です。
- 産業構造の転換を促す政策の実施:成長産業への投資促進や、衰退産業からの円滑な事業転換を支援する施策が求められます。
3. 金融機関の役割
金融機関に期待される役割として、以下が挙げられます:
- 事業性評価に基づく融資の推進:財務データだけでなく、事業の将来性や経営者の資質を含めた総合的な評価に基づく融資姿勢が求められます。
- 経営改善・事業再生支援の強化:財務面のアドバイスだけでなく、経営戦略の立案支援や事業再生に向けた積極的な関与が必要です。
- リスクマネジメント能力の向上:企業の潜在的なリスクを早期に察知し、適切なアドバイスを行う能力が求められます。
4. 新たなリスクへの対応
企業が直面する新たなリスクへの対応として、以下が重要です:
- サイバーセキュリティ対策の強化:デジタル化の進展に伴い、サイバー攻撃のリスクが高まっています。適切な対策の実施が不可欠です。
- 地政学的リスクへの対応:国際情勢の変化が事業に与える影響を分析し、サプライチェーンの見直しなどの対策が必要です。
- 気候変動リスクへの対応:環境規制の強化や自然災害の増加に備え、事業モデルの見直しや BCP(事業継続計画)の策定が求められます。
おわりに
2024年度上半期の倒産動向は、日本経済が直面する多くの課題を浮き彫りにしています。コロナ禍からの回復過程にある中で、物価高や人手不足、構造的な問題が重なり、多くの企業が厳しい経営環境に置かれています。
特に注目すべきは、以下の点です:
- 飲食店や小売業など、消費者に近い業種での倒産増加
- 人手不足による倒産の増加、特に建設業や運輸業での深刻化
- コロナ関連融資後の倒産増加、which は政策の副作用を示唆
- 物価高による倒産の急増、中小企業の経営を直撃
これらの問題に対処するためには、企業の自助努力はもちろんのこと、政府や金融機関による適切な支援策の実施が求められます。同時に、日本経済の持続的な成長のためには、産業構造の転換や生産性の向上、新たな成長分野の育成など、中長期的な視点での取り組みが不可欠です。
倒産は経済の新陳代謝の一面でもありますが、雇用や地域経済への影響も大きいものです。今回の倒産動向を一つの警鐘として受け止め、官民一体となって日本経済の活性化と企業の持続可能な成長に向けた取り組みを加速させていく必要があります。
企業経営者、政策立案者、金融機関、そして私たち一人一人が、この課題に向き合い、それぞれの立場でできることを実行に移していくことが、今後の日本経済の発展につながるのです。
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